Thursday, April 21, 2016

0085 馬券偽造師 中山憲治 ★★★


著者の中山憲治氏はもともとはプロの印刷技術者で、競馬はあくまで趣味でやっていた人です。それがある時、ふとプロならではの好奇心から、馬券にはどんな印刷技術が盛り込まれているのだろう?と思い立って調べてみるところから、もう面白すぎて止められません。

メーカーがライバル商品の研究をする時にやるリバースエンジニアリングもかくや、という緻密な分析の結果、もしかしてこれは作れるんと違うか?と。そこからのトライ&エラーはまさに執念としか言いようがありません。

本書は徹頭徹尾、犯罪の記録でしかないんですけど、読んでいて浮かび上がってくる精神性は犯罪者のそれでは全くなく、もうプロフェッショナリズムそのものです。俺の偽造を見破れるものなら見破ってみろ。ルパン三世は幻の偽札「ゴート札」をして「かつて本物以上とまで称えられた」と言っていますが、本書でも同様の記述があって、あまりにも完璧に偽造してしまうとかえって他の馬券から浮いてしまう・・・だから絶妙な程度にフォントのフチをぼやかして、他の馬券と混ぜた時に自然に見えるようにする、といったことが書かれています。

まことに、なんでも突き詰めた人は一つの奥義に至るというか、職業が異なるというのは入り口が異なるということなんですけど、突き詰めていって到達する奥の部屋は実は一つなんじゃないかという。

繰り返しますけど、この本は徹頭徹尾、犯罪の記録でしかないんですけど、読んでいて一種の爽やかさを感じるのが、著者の中山さんが、偽造馬券でだまし取った百万円単位のお金を、ことごとく競馬でスってしまっていて、自分の手元には全くお金を残さなかった、という点でしょうか。不思議な感覚ですよね・・・偽造馬券で何百万円もだまし取った、その直後に正規馬券を買うために、同じ額をぶっ込んで負けているという・・・。

面白いのが、犯罪が発覚してから、実は十年以上にわたってやっていて、合計で十億以上だまし取ってます・・・と自白した著者に対して、被害者である当のJRAが頑なに「馬券の偽造は絶対に不可能。ましてや十年以上にわたって発覚しなかったなんて有り得ない」と、頑なにそれを認めようとしなかったというところです。検察が困惑するんですよね、被疑者が犯罪を自白しているにもかかわらず、被害者が頑なにそれを否定しようとするという、実に不思議な裁判です。普通は真逆だもんね。

プロフェッショナリズムとかフロー体験とか、いろんなテーマと絡んでいる本なので、人事とか育成とかに関係のある仕事の人であれば、何か得るところがあると思います。夢中になれる何かを見つけると、人間ってここまですごい集中力を出せるんだなあ、という感慨を改めて得ました。





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