Monday, March 14, 2016

0081 世界名言集 岩波書店 ★★


本書は、名著・古典の宝庫である岩波文庫の中から、きわめつけの名言や名セリフを抜粋し、それらを内容のカテゴリーごとに再編集してまとめたものです。ものすごく上等な製本で、昔の百科事典のような装丁になっています。


名言集というと世界的にはバートレットの世界名言辞典が有名ですが、あちらが本当の意味で辞典的な利用目的のために編纂されているのに対して、本書はそうではなく、そのまま「はじめに」から文章を抜粋すれば「岩波文庫という古典の宝庫に多くの人を誘いたい。そのためには原典そのものから喚起力のある章句を切り出して提供したらどうか。わずか数行であってもそれは要約や解説などとは違って、原典の生の魅力を伝えることができるはずだ」という目的のもとに編まれています。

で、いろいろと批判はあるようですが、この編者の目的は十分に達成されていると思います。なぜならかくいう僕自身が、本書で触れた名言をきっかけに原典を読んだということが少なからずあったからです。例えば、こういった名言たちですね。

公共の利益のために仕事をする、などと気取っている人々によって、あまり大きな利益が実現された例を私はまったく知らない。
アダム・スミス『国富論』

知ることがむつかしいのではない。いかにその知っていることに身を処するかがむつかしいのだ。 
司馬遷『史記列伝』

人が事実を用いて科学を作るのは、石を用いて家を造るようなものである。事実の集積が科学でないことは、石の集積が家でないのと同様である。 
ポアンカレ『科学と仮説』

勇気と節操をもっている人たちは、ほかの人たちからみると、いつだって非常にきみのわるいものさ。 
ヘルマン・ヘッセ『ダミアン』

「これがどん底だ」などと言っていられる間は、どん底にはなっていないのだ。
シェイクスピア『リア王』

・・・そろそろ止めておきますけど、本当に、このようなごくごく短い抜粋が延々と紹介されている本です。本の作り自体がそうなっているので、どこから読んでもいいし、どこで止めてもいいという、寝る前とか、まとまった量の文章を読み気持ちになれないとか、そういう時に読むのに最適な本ですよね。こんな感じです。


ではあらためて、ビジネスパーソンが名言集を読むことにどんな効用があるのかと考えてみると、大きく二つあると思います。

一つ目は、かくも短くて簡潔であるにもかかわらず、多くの人のこころを突き刺さって抜けない言葉に触れることで、そういう言葉を自分でも編み出すための源にできるということです。多量の和歌を知らなければ、良い和歌をかけないし、多量の楽曲を分析しなければ良い音楽は書けません。よく勘違いされていることですが、創造性は生まれつきの才能よりも、努力によって蓄積したデータ量によって左右されます。だから同様に「刺さる言葉」をつくるためには、刺さる名言をたくさん知っていなければならない。

じゃあ「刺さる言葉」を自分で作れることの意味合いは何かというと、これはそのままリーダーシップクオリティにつながってくることになります。この点について僕はいろんなところで話していますが「リーダーシップというのは言葉=レトリック」ですから、人を動かすような簡潔でシャープな言葉を作り出す能力というのは、とても大事なんです。

この点、つまり「リーダーシップと言葉」の関係について考えた時に思い浮かぶのがウィンストン・チャーチルです。BBCが2002年に調査した「最も偉大な英国人」で一位に選ばられる等、未だにものすごく人気のある政治家ですけれども、しばしば言及されるのが彼独特の「言葉の力」です。

ナチス第三帝国に対して弱腰な態度をとり続ける英仏を鼓舞するために行ったラジオ演説「我々は決して降伏しない」をきっかけにして英国はナチスと徹底的に戦う覚悟を固めましたし、これは演説ではありませんが東西冷戦を象徴する言葉である「鉄のカーテン」もまたチャーチルの演説が元になっていますよね。

では、そのチャーチルがどんな風に名言を蓄えていったか?チャーチルは大変な読書家だったそうですが、常に肌身離さずに読んでいたのがバートレットの名言辞典でした。この名言辞典をパラパラとめくりながら「刺さる表現」のネタを集めていたんですね。というわけで、まとめれば、人に影響を与えるためには「刺さる言葉」を自分で作らないといけないわけで、その能力は「刺さる言葉をどれだけ知っているか」という量の関数になるわけですから、そういうネタを集めるためにこういう本を折に触れて読んで「ネタ探しする」のは最も効率がいいアプローチだということです。

二つ目は単純に、名言というのは「知恵の結晶」といえるわけですから、その名言を集めた本書は「知恵の宝庫」だということです。しかもその分野は、文学、哲学、自然科学、戯曲、経済学、国学と多くの領域を横断している。こういった多ジャンルにまたがった珠玉の名著から、きわめつけの一文を抜き出して集めているわけで、ある意味で「人間と世界についての認識」について究極の知性のエッセンスが煮詰められていると言えるでしょう。ビジネスが常に「人」と「世界」への働きかけであることを考えれば、両者についての究極の知恵のエッセンスを煮詰めたと言える本書のような本が、ビジネスパーソンに取って有意義でないわけがないと思うんですよね。

岩波書店の世界名言集、いかがでしょうか?

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