Saturday, March 5, 2016

0076 ハーメルンの笛吹き男 阿部謹也 ★


グリム童話の「ハーメルンの笛吹き男」は覚えていますか?

ネズミに悩まされていたハーメルンの人々は、どこからともなくやってきた笛吹き男に報酬を約束してネズミ退治を頼みます。笛吹き男が笛を吹きながら街を練り歩くと、不思議なことに家々からネズミが出てきて笛吹き男の後をついていきます。笛吹き男は街を一巡りしてからネズミを引き連れて川に入り、ネズミを溺れさせます。ネズミを退治した笛吹き男は約束の報酬を求めますが、街の人々は報酬を支払うことを拒否し、笛吹き男は怒って街を出て行きます。そして一年後、恐ろしい形相をした笛吹き男が再び現れ、同じように笛を吹きながら街を歩くと、子供達が笛吹き男の後について村はずれの山奥まで行き、そこで忽然と姿を消してしまう。

評伝によっては、そのあとで「盲目の子」と「聾唖の子」だけが助かって帰ってきたとなっていますが、まあ大体そういう話です。この童話に初めて接したのはおそらく幼稚園の頃だと思いますが、描かれている笛吹き男の形相が怪人二十面相風にむちゃくちゃ怖かったことをよく覚えています。子供時代にこの童話に接した人の多くは、この物語の背後になにか得体の知れない恐ろしさ、凶々しいものがあることを感じたのではないでしょうか。

本書は、この世界中で親しまれている童話が、かなりの程度歴史的な事実であったということを明らかにした上で、この「事件」の真相は、一体どのようなものだったのだろうかということを中世の社会構造に立脚点を置いて考察している本です。

著者の阿部謹也先生は中世ドイツを専門にする歴史学者で一橋大学の学長まで務められた方です。ちなみに僕は阿部謹也先生の本が大好きで、ライプニッツ!でもおいおい阿部先生の本を紹介していきたいと思います。ま、それはともかくとして・・・

面白いなあと思うのが、著者である阿部謹也先生が、ハーメルンの笛吹き男に関する記録を古文書から偶然に発見するシーンです。阿部先生は、何か別の調査のために古い修道院の文書を読んでいたらしいのですが、その中に偶然「1284年のヨハネとパウロの日、6月26日に130人のハーメルンの子供達が街から連れ去られた」という記録を見つけたんですね。それからもとの研究はそっちのけになってしまって、とにかく想像の翼を広げながら、この1284年の6月26日にハーメルンの街で一体何が起こったのか?という真相解明に向けて、様々なリサーチが行われて、本書はそのリサーチの集大成ということになります。

で結論はどうなのかというと、ネタバレになりますが、率直に言えば「よくわからない」ということになります。この伝説は世界中の歴史学者の好奇心をそそるらしく、本当にいろんな説が出されていて、それぞれの論拠についての説明もあるのですが、僕は個人的にどれもしっくりきませんでした。これは聖書のイエス復活の下りもそうなんですが、この話をよくあるアレゴリーとして整理してしまうのはおかしいと思うんです。だったら直裁にそう書けば言い訳で、なにかしっくりこないんですよね。

分かりやすい推理小説的な謎解きを期待していると消化不良の感覚が残るかも知れませんが、謎は謎としてそのままにしておくというのも一つのスタンスかと。歴史好きにはたまらない一冊かと思います。


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