Friday, March 4, 2016

0071 超芸術トマソン 赤瀬川原平 ★★


初出が1987年ですから、もう30年も前の本なんですけど、今読んでもお腹が痛くなるくらいに笑わせてくれます。

超芸術トマソン。なんとも絶妙に間の抜けた書名ですが、一体何に関する本だといぶかしく思うでしょう。本書の内容をそのまま説明すれば、主に家屋やビルなどの不動産物件に付属し、まるで保存・展示されているかのように美しい佇まいを見せる完全に無用のモノをトマソンと名付けて写真に残し、紹介しているという、ただそれだけの本です。

記念すべきトマソン第一号 四谷で発見された「純粋階段」

しかし、なぜ「トマソン」なのか。語源は当時、ドジャースから高額の契約金でジャイアンツに移籍したものの、三振ばかりで「扇風機」とあだ名されていた外国人ゲーリー・トマソン選手に由来します。そんなトマソン選手を見て赤瀬川先生は「立派なボディがあるのに世の中の役に立つ機能というものがない。シュールな生きた芸術品であり、超芸術としか言いようがない」と感動したそうで、同様に「立派なボディがあるのに役に立つ機能がない」不動産物件をトマソンと命名することにしたようです。本人が聞いたら激怒するでしょうね。

赤瀬川先生のトマソンへの想いはひとかたならぬものがあります。先生は「トマソン選手のバットはグリップが手垢で汚れているのに、ボールが当たるべき先端部は真っ白という無用の長物であり、トマソン選手本人のみならず、彼のバットもまたトマソン体である」と絶賛を惜しみません。また、かように役立たずのトマソン選手を、高額の費用をかけて大切に保存し、四番バッターとして展示し続ける巨人軍の態度を、真に素晴らしい芸術スポンサーの理想として賛美しています。

赤瀬川先生はこう呼びかけます。トマソン体は世の中の役に立っていないため、いつ撤去されるかわからない。したがって、トマソン研究者=トマソニアンは、トマソン体の発見に勤しみ、発見し次第、映像などの手段で性質を保存し、他人に伝える努力をしなければならない、と。

くぐるためだけのトンネル「純粋トンネル」

実際、この赤瀬川先生の警鐘は、シーズン途中にもかかわらず、巨人軍がトマソン選手を解雇したとのニュースで現実のものとなります。先生は「恐れていたことが起きてしまった。超芸術の理念を体現している巨人のトマソン選手が、このたび撤去され、ゴミとしてアメリカに捨てられることになった。ボールにバットを当てられないという、たったそれだけの理由で!」と巨人軍の態度を強く非難しています。

ことほどかように内容はナンセンスの連続なんですが、大量に掲載されているトマソン体の写真とそのネーミングが、やっぱりこれはアートだよなあと思わせるんですよね。誰もが毎日見ているはずのものなのに、才能のある人が、あるコンセプトを立ててそれを切り出してきて提示すると、それが人を楽しませるアートやエンタテインメントとして成立してしまう、つまりキュレーションが成り立ってしまうのだということを嫌という程に思い知らされる本です。



No comments:

Post a Comment