Tuesday, March 1, 2016

0067 魯山人の料理王国 北大路魯山人 ★★


言わずとしれた北大路魯山人による料理本です。何がすごいって、もう最初のページから最後のページまで、とにかく「うまい食いもの」についての話がノベツマクナシに語られます。内容としては、料理に関するあれこれの雑感なども所々に混じるものの、八割がた以上は、料理そのものの紹介に当てられています。ちょっと目次から拾ってみると、


鮟鱇
河豚

豆腐
椎茸
納豆茶漬け
海苔茶漬け
山椒
出汁

どじょう
沢庵

といった具合で、それぞれに「どう食うとうまいか」が語られています。読んでおわかりの通り、すべて和食です。上のリストには河豚とか鮟鱇が入っていますが、必ずしも贅沢な食材ばかりではなく、むしろ質素な食材が殆どです。この本を読むと、あまりにも地味な料理であるために、その美味さが忘れられているような料理をあらためて思い出させられます。例えば納豆茶漬けなんかが典型でしょうか。ちょっと抜粋してみましょう。

納豆の茶漬けは意想外にうまいものである。しかもほとんどの人の知らないところである。食通間といえども、これを知る人は意外に少ない。といって、私の発明したものではないが、世上これを知らないのは不思議である。

と始まって、以下「納豆のこしらえ方」から「お茶漬けのやり方」と続いて、納豆はこう練ろ、醤油は練ってから垂らせ、ご飯は熱々を盛れ、茶は煎茶を使え、納豆は飯の四分の一程度にしろ、といった具合に翁山人こだわりの調理法の説明が細々と続きます。で、これ、実際に作ってみると美味しいんですよね、当たり前ですけど。我が家では朝食の定番の一つになっています。

本書で紹介されている料理は、どれもシンプルなもので、作ろうと思えば誰でも作れるようなものばかりです。じゃあ何が、おいしく食べるためのポイントなのかというと、結局は「丁寧」ということに尽きると思います。素材を選ぶ、心を込めて丁寧に調理し、味わうことに集中する。でもこれがなかなかできないんですよね。朝食を食べながら、その日の仕事の段取りなんかをどうしても考えてしまいますものね。

日本の曹洞宗の開祖である道元は、禅の修行における料理の大切さを説いていました。禅寺では調理を担当する役割は典座と言いますが、典座の仕事はとても大切な修行と考えられていますよね。

毎日の食事はコンビニの弁当で短時間に済ませながら、たまの仕事の合間には豪勢なフレンチを食いにいくという食生活をしている人がコンサルタントには多いんですけど、そういうのは「豊かな生活」とはやっぱり言わないんじゃないかと思ってます。何気ない毎日の生活の中で、なんでもない食事をどれだけ丁寧に体験できるか。本書を読めば、そういう丁寧な食事は、必ずしもお金がかかるわけではなく、生活に向き合う佇まいや態度を改めれば十分に可能だ、ということを教えてくれます。



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