Tuesday, March 1, 2016

0064 美術の物語 E.H.ゴンブリッチ ★★


おそらく、美術史の教科書ととして世界中でもっとも読まれている本だと思います。ウィキペディアで調べてみたら、なんと累計で三百万部も売れているんだそうです。

本書は、アルタミラの洞窟に描かれた壁画からスタートした美術が、どのような変遷を経て二十世紀末の現代美術につながるかを、ひとつの長い物語として記述したものです。特筆すべきは図版の豊富さで、たとえば日本における美術史の定番教科書といえば美術出版社のカラー版西洋美術史ということになりますが、あちらの図版が場合によっては切手よりも小さなサイズに縮小されていてむっちゃくちゃ見にくい・・・というか美術品として鑑賞するに堪えるだけの大きさを持っていないのに対して、本書は、それぞれの図版を参照情報としてだけでなく、美的な体験として鑑賞するに堪えるだけの大きさをちゃんと持っています。いくら教科書って言ったって、やっぱり美術なんですから「見て美しいと思える」ことは大事だと思います。

ゴンブリッチの特徴は、文章がとても平易でわかりやすい、ということです。専門用語はほとんど使われていませんし、使われる際には枕詞のように解説がついているので、美術にほとんど縁がないという人でも、内容は容易に理解できると思います。ひとつの時代が次の時代を呼び込んで、呼び込んだ時代がまた次の時代につながっていくという、美術史をリレーのようなイメージで大づかみにしていく感覚があります。なんといっても題名が「物語」ですからね。

サイズは少し大きな新書といったくらいなんですが、厚みが四センチもあるので、一気に読了するというような本ではありません。長い時間をかけて、少しずつ読んでいくような読み方のほうがあっていると思います。僕の場合、一時期寝る前の最後の十分はこの本を読むということを習慣化していましたが、その程度の時間でも半年くらいで読みきってしまいました。

あらためて考えてみると、こういった本が三百万部も売れているというのはすごいことですよね。この部数が売れているということは、別に美術ファンでもない、ごく普通の人たちが読んでいるということですから、彼方ではこの本の内容が常識レベルの教養だということになります。日本人の駐在員や外交官が欧米にいくと、付き合うことになるエリートとの教養格差からどうしても尊敬されないという話を聞いたことがありますが、この部数を見ればさもありなんと感じさせられます。

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