Tuesday, March 1, 2016

0056 子供の宇宙 河合隼雄 ★★★



著者である河合隼雄先生は、日本で初めてユング派の心理分析家の資格を取得した臨床心理学者です。最近でこそセラピーやカウンセリングという言葉が日本においても市民権を獲得した感じがありますが、河合先生が箱庭療法などのカウンセリング手法を日本に紹介し始めたのは1960年代のことですから、日本における分析心理学の黎明期に、その普及・啓蒙を牽引した方です。

河合先生について紹介しようとすれば、まあそういうことになるのでしょうが、この紹介の仕方だと先生の大きさ、深さが全く伝わらないのが歯がゆいですね。僕の筆力の問題で全く申し訳ない限りなのですが、河合先生というのは、僕を含めた多くの人にとって、こう言った通り一遍の紹介では納まりきれないような大きな存在、魂ではないかと思います。作家の村上春樹さんは生前の河合隼雄を「先生」と呼んで慕い、実際に対談の本まで著していますよね。こちらの対談も読めばとても面白いのですが、それはまた別の機会にしましょう。

本書は、その河合隼雄先生による「子供の宇宙」についての本です。

宇宙というのは、僕ら大人からは見ることができない、子供独特のイメージの世界です。河合先生は、すべての子供たちは大人からは想像もできない広大な宇宙を持っていて、その宇宙との交感の中で生きているのだから、大人がそれをないがしろにしたり、場合によっては破壊したりしてしまわないようにしないと気をつけないといけない、と指摘しています。

本書では、家族・秘密・動物・時空・老人・死・異性という7つのテーマから、それぞれのテーマに関連する児童文学を軸にして「子供の宇宙」について考察していきます。題名からは想像もつきませんが、この児童文学の内容紹介にかなりの紙幅が割かれており、本書を良質な児童文学の紹介本として読むことも可能だと思います。例えば『ノンちゃん雲に乗る』なんて、小学校の教科書で読んで内容をなんとなく覚えてはいたのですが、河合先生による解説を読んで、はじめてプロットが持っている意味合いを理解できました。


本書で最も感動的なのは、様々な理由から心を病んでしまった幼い子供たちが、カウンセリングによって自分の心を取り戻し、先生や先生の同僚の元から巣立っていくというくだりでしょう。家以外の場所で全く話せなかった男の子が、ある動物との出会いと別れを通じて話せるようになっていく過程などは、読んでいて胸に差し込んでくるような切なさがあります。

そういった、紙面から温かい放射熱が立ち上がってくるような内容もあれば、一方で、心ない大人の一言によって世界に対して心を閉ざしてしまった子供たち、あるいは自分の命まで絶ってしまった事例も紹介されており、子供に向き合う大人たちの責任について、ある意味では非常な厳しさを突きつけてくる側面もまた、あります。

子供を持つ親はもちろんのこと、かつて子供であったすべての人たちに読んでほしい名著だと思います。


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