Tuesday, March 1, 2016

0054 「権力」を握る人の法則 ジェフリー・フェファー ★★★



この本は、組織内で権力を握る立場に立つために必要な七つの法則について説明しています。著者のジェフリー・フェファーはスタンフォード大学ビジネススクールの教授で、専門は組織行動論です。

通常、こういう類いの本って、権力を握りたい人にこそ有用であって、権力にそれほど関心がない僕のような人にとってはあんまり面白くないことが多いんですが、本書はいろんな気づきを与えてくれました。この本、主題はもちろん「どうしたら権力が手に入るか」という論点なんですが、やはりというべきか、権力って人と人との関係性についての概念ですから、深く掘り下げて考えていけば最終的にどうしても組織と人間の考察になるんです。なんとも薄っぺらい題名なので、敬遠したくなるかもしれませんが、内容は組織論や心理学の知見を縦横無尽に用いた「権力の生成に関する構造的考察」になっているので、知的にめちゃくちゃアクロバチックです。

例えば、本書は世界の在りようについて「世界は公正ではない」というテーゼを置いて議論を進めます。世界が公正であれば、権力を握るための特別な運動など必要ありません。優秀で実直な人が継続的に努力すれば、やがてその働きを認める人たちからしかるべき地位を与えられるはずだ、ということになります。ところが世界は公正ではない。だから、いつか誰かが認めてくれるだろうなどと信じて実直に努力を積み重ねるなど愚の骨頂であり、権力をつかむためには「権力を掴むための」運動をしなければいけない、というのが本書の基本スタンスです。

さて、世の中は公正にできていると考える人、いわゆる公正世界仮説を支持する人が多く、さらに悪いことに、こういう人は、なにか不遇な目にあっている人を見ると「きっと本人になにか問題があるのだろう」と考える傾向があります。旧約聖書のヨブ記は、公明正大で信仰の厚いヨブが、神の気まぐれからヒドイ目に遭うという話ですが、その中にお見舞いに来た友人から「お前、何も悪いことしてないって言ってるけど、そんなヒドイ目にあってるんだから自分で気づいてないだけで、何か悪いことしてるはずだよ」と難詰される箇所があります。心理学の用語でいう被害者避難ですね。世界が公正だという、一見美しい考え方は、結果として発生している様々な格差を全て本人の責任に回帰させるという非常に残酷な考え方でもあることをフェファーは指摘し、そんな考え方は止めれ、と進めています。

あと、個人的にハッとさせられたのはセルフハンディキャッピングの項目です。セルフハンディキャッピングというのは、人がある機会を与えられた時に、失敗した時の逃げ道のためにわざと努力や頑張りを中途半端なものにしてしまう、という心理の傾向を指すことばです。皆さんも心当たりあるんじゃないでしょうか?「俺はまだ本気になってないだけだから」とほざきながら一生を終える人は少なくないようですが、これもセルフハンディキャッピングで説明すれば解りやすい。自分の実力がモロに出るのが怖いんですね。これが先ほどの構成世界仮説と結びつくと恐ろしい。世界が公正である以上、本気の努力をして結果が出なかったら救われようがありません。別に世界が公正でなければ、まあそういうこともあるよ、次から頑張ろうで済むわけですけどね。

といった具合に、マキャベリズムをアクセル全開にしたような題名の本ですが、内容は組織論、心理学の様々な知見から「権力」ついて考察するという、非常にアカデミックな本です。権力が欲しい人も、権力に関心がない人も、権力が大嫌いという人も、それぞれの立場で得るものが多い本だと思いますよ。


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