Tuesday, March 1, 2016

0052 カルト教団 太陽寺院事件 辻由美 ★★★



太陽寺院はフランスやスイスを中心に活動した新興宗教組織です。ウィキペディアの説明をそのまま転記すれば、

太陽寺院は、ニューエイジの神秘主義と環境保護を主張するカルト教団。正式名称は太陽伝説国際騎士団。1994年10月にスイスカナダ集団自殺したとされ、53人(うち子供16人)が遺体で発見された。教祖を含め信者は高学歴で社会的地位のある裕福な白人が多かったため、全世界に衝撃を与えた。

という事件を引き起こしました。

本書は、教団設立から集団自殺までの模様を、集団自殺をかろうじて免れた元信者へのインタビューも含めた膨大な取材によって描き出したノンフィクションドキュメントです。

この本、一度読み始めたら止められないくらいに面白いのですが、あらためて何がそんなに面白いのかというと二つ理由があるように思います。

まず、カルト教団が生まれて、信者がどんどん増えていって、なんかオカシナ感じになっていって、最後は破滅するというそのプロセスが、よくもまあここまで調べたものだと感服させられるような緻密な情報によって描き出されている、ということ。カルト教団の話になると、だいたい「わけのわからない人たちがわけのわからないことをやって勝手に崩壊した」というような、不可知論的な向き合い方しかできないケースが多いと思うんですけど、ここまで緻密にその過程が描き出されると、そこにはそれなりの理屈というか、共感はしないまでも「まあわかるよ、その気持ち」という感じが浮かび上がってきて、これが非常に面白い。

もう一つが、カルト教団が生まれる背景となる欧州の秘密結社の歴史についての説明です。太陽寺院自身は、自分たちをテンプル騎士団の末裔であると主張していたようですが、そう言った欧州における秘密結社の歴史や社会との関わり、市井の人々に与えている心理的な影響といった部分についての説明が、やっぱり知的好奇心を刺激されてとても面白いんです。

凄惨を極める結果を招いた事件でもあり、その結果に至るプロセスに人間のもっともおぞましい部分を認めざるを得ない本なんですが、あまり重い感じがしないという、不思議な印象を与える本です。恐らく、著者の辻さんが、要所要所に差し挟んでいる、フランス生活での実体験や、取材者との生のやりとりの微笑ましい一面が、この本をある程度の重さに押しとどめている要素なのだと思います。

読んでいて非常に興味深いと思ったのは、ぎりぎりのところで集団死を免れた元信者による「何度も何度も、これはインチキだ、おかしいと思いながらも、これをインチキと認めてしまったら自分がすがるものがなくなってしまうと思った」という証言です。すがるものない中で生きて行くという恐怖から、最後まで服従してしまったということらしいんですね。太陽寺院の被害者の会の担当弁護士も、熱狂的な信者になった人たちは「何か、今の世の中は生きにくいな、という感覚を持っている人が多かった」と述べています。

僕はカルト教団に関する本はそれなりに読んでいて、ライプニッツ!でもこの本以外にカルト教団に関する本を紹介しています。どうしてかというと、カルト教団に関する本から大きく二つの示唆を汲み取ろうとしているんです。

一つは、カルト教団に帰依する人たちの心理や行動から、人間を理解するための示唆や洞察が得られるんじゃないかと思っています。認知不協和理論の大御所である心理学者のレオン・フェスティンガーも、理論の構築・説明にあたってたびたびカルト教団を題材にしていますよね。

もう一つは、カルト教団が人を集めて凝結させるプロセスから、組織を理解するための示唆や洞察が得られるんじゃないかということです。組織に対する忠誠心をいかにして醸成するか、というのは組織論や経営学における大きな論考テーマの一つですが、カルト教団というのは、そういう意味では「組織に対して熱狂的なロイヤルティを持つ集団」を作ることに最も成功した事例と考えることができます。そこから得られた示唆をどう利用するかについては個人の見識が問われることになりますが、組織論の専門家として、カルト教団という研究の題材は非常に興味深いんですよね。

上記の二点、つまり「人を知る」「組織を知る」という点からも、本書は多くの示唆や洞察をあたえてくれる非常に優れたテキストになっていると思います。


No comments:

Post a Comment