Tuesday, March 1, 2016

0041 科学革命の構造 トーマス・クーン ★★



パラダイムシフトという言葉は聞いたことがあると思います。新しいものの見方やモノゴトを考える枠組みが大きく転換することを指して用いられる言葉ですが、この言葉を今日の意味合いではじめて用いたのが本書でした。

著者のトーマス・クーンは、ハーバード大学で科学史の先生をやっていた人ですね。クーンは、例えば天動説から地動説へと定説が転換するような大きな枠組みの変化を並べてみると、そこにあるパターンがあることに気づきました。この本は、そのパターンについて説明している本ということになります。この説明が、まんまイノベーションの発生メカニズムと同じなんですよね。かいつまんでクーンの主張を説明してみますと・・・

クーンは本書のなかで、科学を通常科学(normal science)と異常科学(extraordinary science)に分けた上で、主流であった前者が、傍流であった後者にとって変わることでパラダイムの転換が起こると説明しています。ここでいう通常科学とは、いわゆるアカデミックな模範となる科学であり、社会的な権威を持った科学者集団によって行われている研究です。

通常科学には通常科学なりの概念や方法論、理論により規定される「解」を求めるためのルールが存在していて、このルールの参照点として位置づけられるものがパラダイムということになります。観測機器は技術の進展とともに発達していって、観察される事実はどんどん増えていきます。そして増加する事実を説明するために、パラダイムもどんどん進化していくことになってやがてある体系を確立するようになる。

ところが、そうやって確立されたパラダイムに基づいた理論と整合しない事実が発見されると通常科学のパラダイムに矛盾が生まれることになります。もちろん、通常科学の信奉者たちは、パラダイムを修正したり付加的なルールを加えたりすることで新しい事実を説明できるようにパラダイムの「延命」をはかるわけですが、当初はシンプルで美しかったパラダイムも、こういうことを繰り返していくと複雑で異形なものに変質していくことになります。

ことここに至って、おいちょっと待てよ、という集団が登場します。彼らは、新たに発見された事実を説明するために、通常科学が参照するのとは異なるパラダイムを準備して新しい理論を構築することを試みる。これが通常科学に対する異常科学として成立することになるわけですが、当初は学問的に異端視されることになります。しかし、異常科学のパラダイムが、通常科学よりもシンプルで無矛盾に事実を説明できることがわかってくると、やがてそのパラダイムは通常科学として承認されるようになり、ここにパラダイムシフトが完結することになります。

ここまで読んで気づいた人もいるかもしれませんが、これはクリステンセンが『イノベーションのジレンマ』で説明した「破壊的イノベーションの発生プロセス」と全く同じです。そう、この本はまんま「科学の世界における思考のイノベーションは、どうやっておきたのか」という解説書として読むことができるんです。イノベーションという観点について本書が与えてくれる洞察は、大きく二つあります。

一つ目は、パラダイムシフトは、過去のパラダイムを信じていた人が新しいパラダイムに宗旨替えして発生するのではなく、過去のパラダイムを信じていた人が全て亡くなり、新しく科学の世界に入ってくる人が新しいパラダイムを信じること、つまり信奉しているパラダイムの世代交代が起こることで発生している、と説明しています。これはなかなかシビれる指摘ですよね。僕らは会社とか社会とかコミュニティとかいろんな場所で、過去のパラダイムに囚われているオールドタイプ(ガンダム風)を説得して、新しい取り組みを始めようとしているわけですが、クーンに言わせるとそういう営みは費用対効果が低い可能性があるということです。宗旨替えさせるよりも仲間を増やす、ということの方が大事じゃないの?というのがクーンが突きつける示唆です。

二つ目は、新しいパラダイムを提唱する、つまり上記の説明になぞらえれば、通常科学に対して、異常科学を最初に提唱する人にはパターンがあって、それは「とても年齢が若いか、あるいはその世界に入って日が浅い人」であるという指摘です。これもビジネスの世界におけるイノベーションについて、大きなヒントを与えてくれる指摘だと思うのです。

イノベーションを起こすには経営資源を集中的に投下することが必要で、そのためにはヒト・モノ・カネの資源を動員するだけのパワーが必要になります。一方で、パラダイムシフトを起こす「年齢が若い人」や「その世界に入って日が浅い人」は、組織の中で権力や発言力を持つことはない。新しい枠組みを構想する「頭脳」と、それを実現するための資源動員力を持つ「腕力」とが乖離している、というのがイノベーションをとても難しくしているわけです。僕はいたるところで「イノベーションを起こしたければ、組織のネットワークの作り方に着目してください」と言っていますが、このクーンの指摘を読めば、その理由がお分かり頂けるとおもいます。

上記以外にも、イノベーションについて関心のある人であれば、そこかしこに示唆や洞察のある本だとおもいます。



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