Tuesday, March 1, 2016

0028 マネーボール マイケル・ルイス ★★★



この本に書かれている内容を、僕は一時期コンサルティングファームの入社面接で使うケース問題の題材にしていました。その後に映画化されたこともあって、今となっては同書の内容について知悉している人も多くなってしまったので、入社面接のケースとしては使えなくなってしまいましたが、当時は「地頭の良さ」がモロに出る、とてもいいケース素材だと思って頻繁に使っていました。ごく稀にですけれども、三十分ほどの議論で相当いい線まで食い込んでくる子がいるんですよね。

僕が受験者に出していたのは、著者のマイケル・ルイスが本書を著すにあたって立てた問いと全く同じです。それはつまり、

貧乏球団アスレチックスはなぜ1/3の選手獲得予算で金満球団ヤンキースと同等の成績を収められるのか?

という問いです。

そして、この問いに対する長い長い回答が、そのまま本書の内容ということになるんですが、初めて読んだ時は驚愕すると同時に、彼らが採用した「数学そのもの」と言える戦略に、ものすごく知的に興奮したことをよく覚えています。

そんなに単純な話ではないのですが、本書で開陳されているアスレチックスの秘密を一言でまとめれば「他球団とは違うモノサシで選手を見ている」ということになるかと思います。例えば、僕らが野手を評価する際によく用いる「打率」というKPIをアスレチックスでは用いていないんですよね。アスレチックスでは「打率」ではなく「出塁率」をKPIとして評価する。もちろん打率と出塁率には高い相関があるわけですが、人によっては出塁率が高いにもかかわらず、打率はそれほどでもない、という人がごく稀に出てくる。こういう人を狙ってスカウトするわけです。

ええ!?なぜ?と思われるでしょうが、本書を読めば極めてそれが非常に合理的だということがわかります。打率が低いのに出塁率が高いというのはつまりフォアボールで出塁しているということです。フォアボールが多いというのはそのまま選球眼の良さにつながります。そして、バッティングの物理的な力やフォームは後天的に鍛えることが容易ですが、選球眼の良し悪しは後天的に鍛えることが難しいことがわかっています。なるほど。

その他にもチーム打率とチームの勝率は関係ない、ホームランの数など意味が無い、防御率なんかどうでもいい・・・とにかく、これまで「良い野手」「良い投手」を規定するとされてきたKPIをことごとく否定して、統計的分析を通じて「アスレチックスだけが着目する指標」を磨き上げ、その指標に基づいて他チームが見向きもしない選手をドラフト一位指名していくわけです。

面白いのはアスレチックスにドラフト指名された大学生本人がびっくりするという点です。本人自身も旧来型のKPIで自分を判断しているので、自分はドラフトでお呼びがかかるわけが無い、と思っているんですね。そして、その選手がプロ入りするとその選手の大活躍と他チームスカウトの「なぜ見抜けなかったか!」という地団駄が見られる・・・

この本を読むと、従来のパラダイムで「良い」「悪い」とされてきたものを、もう一回、本質的なメカニズムまで立ち戻って考えてみるということの大事さが良く分かります。

昔は大学生選手の打撃成績を大量に収集して多変量回帰にかける、なんていうことは2つの理由で出来なかった。1つはデータの不備でもう一つは計算能力の問題です。そのそれぞれはインターネットの普及とパソコンの計算能力の飛躍的向上で解決されてしまいました。テクノロジーの進歩と「常識を疑う」という知的態度が一緒になるとイノベーションが起こるわけです。


ビジネスにおけるイノベーションを志向する人にとっても学ぶところの多い本だと思います。

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