Tuesday, March 1, 2016

0027 スティーブ・ジョブズ ウォルター・アイザックソン ★★★



スティーブ・ジョブズの詳細なバイオグラフィーですから、面白くないわけがないんですが、単なる「面白い読み物」として本書に接するのはもったいないと思う。時価総額世界一の企業を作り上げた経営者が、具体的にどのようにして経営計画を作成し、会議を運営し、スタッフにビジョンをコミュニケーションしてきたかを詳細に知ることが出来る、というのが本書の最大の眼目だと思います。

自分の命がそれほど長いあいだはもちそうにない、ということを悟ったスティーブ・ジョブズは、高名な伝記作家として知られているウォルター・アイザックソンに自分のバイオグラフィーを書いて欲しいと依頼しました。アイザックソンは一度ならず「君はまだ自伝を書くような年齢じゃないだろう?」と断ったそうですが、最終的にジョブズの奥さんから「彼は癌にかかっています。書いてあげてください」と依頼されて、本書が書かれたようです。

でも、考えてみれば、こういう書かれ方をされた自伝というのも珍しいですよね?多くはビル・クリントンのそれのように、自分の半生を振り返るという形式で自分が語るか、あるいはシャネルのそれのように、亡くなった後に一生を振り返るという形式で他者が語るか、どちらかであるように思います。死期を悟った世界最高の経営者が、世界最高の自伝作家に対して全面的に協力して書き上がったのが本書であり、だからこそ「仕事の現場の具体的な言動」まで記述できたのでしょう。存命中の本人と家族、同僚に詳細なインタビューをして書いているのですから、リーダーシップを研究する人間にとって本当に貴重な記録だと思います。

僕はいろんなところで繰り返し行っていますが、本書を読んで改めて確認したのが「リーダーというのはつくづく言葉が全てなんだな」ということです。リーダーについて、世間の議論や関心は「頭がキレる」とか「創造性がある」とかいう属性に焦点を当がちで、実際に本屋を見てみれば「論理思考力を高めろ」とか「創造性を高めろ」といった能力開発系の本が多いんですが、一番大事なのは「どう語るか」なんですよね。

この本がとても良いと思うのは、ジョブズの言った言葉がそのままスクリプトとして多数掲載されていることです。本当に、読んでいて痺れるような言葉の数々です。

「会社がグチャグチャの状態なのに取締役会の乳母役までやってるヒマはないんだ。取締役は全員、辞めてくれ。そっちが辞めないなら僕が辞め、月曜日から出社しない」
「なにをしないのか決めるのは、なにをするのか決めるのと同じくらい大事だ。会社についてもそうだし、製品についても同じだ」
「次々とスライドなんか見せず、ちゃんと問題に向き合ってほしい。課題を徹底的に吟味してくれ。自分の仕事をわかっている人にはパワーポイントなんかいらないよ」

あともう一つ、この本を読んでいて思いだすのがマキャベリです。ライプニッツ!ではマキャベリの『君主論』もおすすめ書籍として取り扱っていますが、ジョブズという人はマキャベリズムの一つの具体像という気がしますね。リーダーというと一般的に「愛され、尊敬され、慕われ」る人と思われがちですが、マキャベリが指摘するように「恐れられ、避けられ、憎まれ」ることもまた必要なのかも知れない、という示唆を本書は示してくれます。

憎まれることを全く意に介さないような暴君として振る舞いながら、その下では世界で最も優秀と言っていいスタッフたちが身を粉にして働いていた、というのがジョブズ指揮下のアップルだったわけです。探そうと思えば他にいくらでも職場を見つけられたであろう人々が、なぜあんな暴君の下で才能とエネルギーの全量を注ぎ込んで仕事をしていたのか・・・本書を読んでもその答えは得られませんが、強い組織、強いチームを作るにあたって何が重要なのか、一筋縄ではいかない人間の不思議なサガも含めて、いろいろと考えさせられる深みのある本だと思います。



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