Tuesday, March 1, 2016

0005 アムンセンとスコット 本田勝一 ★★★


ノルウェーの探検家:ロアール・アムンセンとイギリス海軍の軍人:ロバート・スコット。二人が南極点到達レースを争ったのは20世紀の初頭のことで、結果はご存知の通り、アムンセン隊は隊員が後になって「あれほど楽しい探検はなかった」と述懐するくらいスムーズに南極点に到達して帰還したのに対して、スコット隊は雪上車も馬も全く役に立たず、最後はソリに乗せた犬を人間が引っ張っていくという悲惨な状況に陥り、ついには全滅してしまいました。

この物語は、例えば西堀栄三郎氏をはじめとして、さまざまな人がリーダーシップ論を研究する際のケーススタディに取り上げられていますね。それらの多くは、アムンセンとスコットの明暗を分けたのは、探検そのものの巧拙よりも、準備の巧拙にこそあったという結論でまとめているものが多いようです。ま、それはそれでその通りだとは思いますし、そういう観点、つまりプロジェクトマネージャーとしての「すべし」と「すべからず」という学びを得るという観点から読んでも、多くの示唆や洞察が得られる本だとは思います。

ただ、僕はこの本を読んで別の側面からの示唆も感じるんですよね。それは「適材適所」という観点、もっと端的にかけば「人選を誤ると悲劇が生まれる」ということです。

今でこそ二十世紀を代表する英雄の一人になっているアムンセンですが、この人はペテン師と紙一重の人だったろうと思います。なぜって、そもそもこの南極探検自体からして、本人はもともと北極に行く」と周囲を説得して資金やら人材やらを集めていたわけで、それがじゃあどうして南極に行くことになったのかというと、アメリカのピアリーに一歩先に北極に行かれてしまったからです。彼は、北極に行くため、という名目で集めた資金や人材をそのままにして、出港して陸地からの手出しができなくなってから「あー、やっぱり行き先を南極に変えます」と連絡したわけで、失敗していれば間違いなく詐欺で逮捕されていただろうという、そういう人です。

一方のスコットは、イギリス海軍のエリート軍人として出世を夢見ており、別に極点への憧れはありません。スコットは、それまで課題として与えられた仕事を見事に完遂しており、今回の南極探検も彼ならやり切れるだろうという「組織側の期待」を担って登用されただけで、本人に「南極点に行きたい」という情熱があったわけじゃないんです。

この構図、つまり「情熱を持った好奇心駆動型のペテン師」と「情熱のない課題優先型のエリート」という戦いの構図は、現在でも「ベンチャー企業」対「大手企業」との戦いの中で繰り返し演じられていて、やはり南極点到達レースと同じように、好奇心駆動型のペテン師の勝利に終わることが多いように思います。過去を振り返ってみても、例えばライト兄弟と動力飛行機の発明を争っていたのは米国陸軍ですが、これもライト兄弟に敗れた後は、さっさと研究を止めてしまっていますよね。本当、こういう構造はどこでもかしこでも繰り返し行われているんです。

これまでのプロジェクトをことごとく成功させてきた「規律を重んじるエース」と、殆どペテン師と言っていい「半ばプー太郎の探検家」が争い、結局は後者が勝利した理由はなんなのか?事業創造や人材登用についての深い示唆が得られる一冊だと思います。

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